カメラのファインダーレス化とコンパクト化
スマートフォンと一眼カメラの違いは何か。そう聞かれると驚くくらい様々な違いがあり、どこからどう答えたものかと悩んでしまう。しかしそれら全てを説明したとて、ただのカメラオタクが発する呪詛のようなものにしか思われず、まともに聞いちゃもらえない。では一番の違いは何か。その一点に絞って回答するなら、答えはファインダーではなかろうか。

じゃあ、このファインダーが無かったらそれは一眼じゃないのかと言われたらそれは違う。というか、ファインダーの無い一眼なんていくらでもある。ただ、スマホではなくカメラを持つ理由としては、写りやら手ぶれ補正の有無なんかよりも、この要素が大切になる。もちろんこれは個人的な意見であって、カメラマンがみんなそう思っているとは言わない。
一眼を使わない人からすれば、このファインダーの何が便利なのか。そもそも何なのかと首をかしげる人も居るはず。ぶっちゃけ写真を撮るだけならファインダーは無くてもなんとかなる。それに動画を撮るんだったらファインダーよりも背面の液晶を見ることが多い。というかほぼそっち。それでも私にとってファインダーは重要で、なくてはならない。

例えばこのミラーレス一眼。これはシグマの出したfp Lというカメラで、小さくて軽いのに排熱性能も高く、色もいい高画質な写真や動画が撮れる素晴らしい一眼。私は特にお気に入りで、このカメラを持ち歩く事が多かった。しかし日中や光の多い場所、AFの迷う環境での撮影を何回かしている内に、「もうこいつじゃ駄目だ!」と叫び、手放してしまった。
性能は申し分なくデザインも良かった。それでも手放した理由こそが、ファインダーの有無だった。といってもここまで目を通したところで、大半の人は未だにファインダーとは何なのかがよくわからないと思う。急に映画を途中から見せられて、人間関係が分からない状態で物語が進んでいく置いてけぼり感があるだろうから、そろそろ説明をしよう。
ファインダーとは、うまく写真を撮るための武器である。
余計に分からなくなるだろうから、ちゃんと書く。分かりやすいようにスマホでいうと、撮りたいものは決まっているのに、周りの要素が余計な情報として視界に入ることがあると思う。可愛い野良猫を見つけた。でも近くに謎のおじさんがいる。そんな時、殆どの人はおじさんが野良猫の可愛さを半減させているように感じて、写真を撮りにくくなる。
あるいはよく晴れた夏の日。野良猫が見つけたひんやりとしたスペースでのんびりとしている。猫は油断しきっていて、空から注ぐ太陽光は猫の白い毛をツヤツヤと光らせている。しかしカメラを向けてもスマホの画面が光の反射で見にくい。それでもなんとか撮ってみたものの、後で写真を見たらピントが合っておらず、謎のおじさんにピントが合っていた。
そういう時に役立つのが、ファインダーである。

ファインダーは覗き窓。外からの光を防ぐことで、カメラのレンズを通した被写体の姿や、もしくはファインダーそのものを通した景色を映し出してくれる。更に映像が見やすくなるということは、何にピントがあっているのかがよく分かる。つまり、ここぞという時に撮りやすくなり、失敗を防ぐ確率を上げてくれるのがファインダーという武器といえる。
最近はランチ動画ばかり撮っていて、正直に言えばしばらく写真を撮るために外出するという行為が減っている。それでも、いや。むしろ撮影の機会が限られているからこそ、後でがっかりするハズレ写真を量産しないためにも、打率を上げていかねばならない。その場限りの瞬間を捉えるスナップ写真なんかは、特に気を付けないと何のメッセージ性も無い写真になる。
しかしファインダーというのは便利な一方で、昨今のコンパクト化という風潮からすれば邪魔な存在でもある。カメラを小さくするには、どうしても何らかの機能を削らないといけない。しかしカメラとして削れる機能には限度がある。そこで削られがちなのがファインダーであり、個人的には嫌だとは思いつつもある程度納得もしている。

少し話は前後してしまうのだけれど、これはEVF-11というアクセサリ。ファインダーの無いfp Lに高性能なファインダーを付けられるという代物で、ちゃんと公式から出ている。他にも別のアクセサリとかもあったんだけど、どれも共通した問題がある。それはアクセサリを追加することで、fp Lの持つ魅力であるコンパクトさや手軽さが失われることである。
正式なライセンス商品で公式のアクセサリ。これ以上のものはないと断言してもいい。ただ、これが駄目だった。ファインダーとしては素晴らしく、使い勝手もよかった。しかし、これを装着したfp Lは素晴らしくなかった。コンパクトさを失い、外付けだからかガタツキもあり、何よりどことなくやぼったく、一言で言えば持ち歩きたい見栄えじゃなくなった。
今は持ち歩きしやすいコンパクトなカメラに需要がある。スマホに慣れている人はファインダーという概念がそもそも薄く、そこまで必要性も感じていない。だからファインダーレスのつ小さなカメラが増えるのも理解できるんだけども、ファインダーが無いという理由だけで悩む人も少なからず存在する。しかしコンパクトとファインダーは相性が悪い。
ファインダー付きのコンパクト(サイズが小さく、軽いもの)なカメラ自体は割と存在する。ところが全体的にすっきりとしたデザインのものは少なく、フルサイズだとかなり限られる。ソニーのα7Cほどコンパクトなものはなく、後はせいぜいキヤノンのRPとR8くらいなもの。もしfp Lに最初からファインダーが付いていたら、きっと悩むこともなかった。
重さはいいけどデザインが……。デザインはいいけど重さが……。ほぼ完璧だけどファインダーがない……と毎月一回は悩み、一人勝手に悶え苦しんでいる。けれどもそんな中で最近発表されたニコンとキヤノンのシネマカメラがある。ニコン ZRとキヤノン EOS C50だ。どちらもファインダーレスだけど、仕様等から判断するに液晶は見やすそうな作りに見える。
この辺りのカメラならファインダーがなくても大丈夫かもしれない。しかしそう思って買ってから数回使って、やっぱり駄目だと泣き喚きそうな気がしてならない。日中に屋外で触らせてくれる機会でもあればいいんだけども、そんな機会もそうそうない。今日もまたファインダーの幻想を追って、買うかどうかも分からないカメラや、よく分からない謎に思いを馳せる。
謎のおじさんってなんだよ。